第1章■丹波の森 四度石遊山

第1章1項
家づくりへの道のり -ある夫婦の物語り-

桜のつぼみもようやくふくらんできたある日、謙治はお茶を飲みながら新聞を読んでいた。
「お父さんからいただいた土地のことだけど・・・、そろそろ家を建ててみたらと思うのだけど、どうかしら?」
妻はそのことを以前から思っていたらしく話しかけてきた。

「そうだね。子供もだんだんと大きくなって二人目が出来たら部屋も狭くなるなあ。」
不惑の年を近くに控え、妻の言葉に生活設計を真剣に考えなければと彼は責任の重さを痛感したのだった。
鈴木謙治、役所に在籍する三十七歳の課長職。妻とは六年前に結婚、幼稚園に通う四歳の娘が一人いる三人家族である。
農家の三男でこのたび百八十坪の土地を生前贈与で相続し、最寄りの駅近くのマンションで暮らしている。

小春日和で暖かいある日曜日、一家は近くの住宅展示場に来ていた。
 妻はモデル住宅を見て希望が膨らんだのかうきうきとはずんだ声で、
「さっき見た洋風の家、玄関が吹き抜けでリビングも広く、キッチンも対面で広く白い壁でとても明るくよかったわ。」

しかし、彼はどっしりとした太い柱や梁のある木組みの実家で育ったので展示場の家は何か物足りなさを感じ、妻の反応とはいささか違ったものを感じていた。

建てるならハウスメーカーのこんな家がいいと妻は強くアピールしていた。

彼は、車で三㎞のところに別の展示場があるので妻をそこにも連れて行き、ゆっくりと見学させたがやはりどこも同じスタイル、よく似た素材の造りで今のトレンドを物語っていた。