第1章3項
丹波の森で番匠が手がけた建造物「四度石遊山」

丹波山南町四度石。「丹波の森」ここに20数年程前、喧騒と繁忙な毎日から週末にこの山で俗事を離れて過すため、奥深い山に小さな庵を造りました。
 きれいな湧き水と檜や杉の樹齢300年から400年は経つと思われる背の高い大木が繁る森蹊の散策や、雑木林に囲まれた庵で囲炉裏に火をおこし、遠い過去の人達の暮らしに想いをはせる境地に浸りました。
 しばらくは静寂な自然の中に自分を置いてみて徒然なる時間を費やしておりました。しかしながら、落着いた頃、想うことは家造りのことに帰着し、何かこの土地で集大成を完成させようと決意したのでした。

たまたま近くの竹林山にある重要文化財を内臓する常勝寺は、孝徳天皇の大化年間(645〜650年)法道仙人によって開基され、その後120余の堂房甍をつらね発展した。

また清水一門が隆盛を極めた宮大工の郷であることも私をあと押ししたのかもしれません。
 ふだんから私は「地震に強い家とは何か」と言うテーマに真剣にとり組み実践してきました。
 静かに歴史をふり返りますとこの日本の国で法隆寺を始め建立して千年前後の歴史を持つ仏閣や塔が数多く遺産として残っている事実は何を物語っているのでしょうか。
 悠久の時を刻む間には大きな地震や風雨が何度もあったはずです。それに耐えて倒壊もせず今日に残っている姿はまさに驚嘆すべきことです。

これらの建造物に共通する点は一に建築材料の良さ、緻密にして繊細な設計そして複雑な木組みをていねいに作事した伝統構法、それらが一体となって日本古来の匠のすばらしさが長い年月を経ても微動だにせず美しい構築物として残っているのです。

幸いにこれらの伝統構法は先人から現代に綿綿と受け継がれており、この世界に誇れる技術を現代の家造りにとり入れて再現しようと考えました。
 自然をできる限り壊さずに自然と融合する建物を念頭に置き、そこに日本古来の伝統構法による知識を結集しようと思いました。単なる大きな展示物に終らせず何百年も後の世に立派に残るモニュメントを建造する決心が定まりました。