地震に強い伝統構法の家を実証するために
−実大伝統木造建物の振動台実験より−

平成19年1月と2月、平成20年11月と12月、平成23年1月、平成24年9月に防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター(E-ディフェンス)で1995年兵庫南部地震(阪神大震災)で記録された震度6強の地震波を人工的に起こし、振動体の損傷状態を調べられた。

振動前


〈平成19年 第一回実験〉

差し鴨居と小壁が耐力壁のように機能し、足固めで柱がしなる一方、構造物が基礎に緊結されていないので浮いたり、滑ったりした。

振動中 右にしなっている

実験の結果、木造住宅は大きく軌み、左右に揺れ動いても元の形に戻り決して倒れたりはしなかった。
これは伝統の木組みが仕口などでしっかりと組まれており、引張りと圧縮の力に効いていて柱が大きくしなっても、揺れを吸収しているからであった。壁、天井、床面などが柔構造であるため、部分的には損傷を認めるも大きなダメージが起こっていなかった。



振動停止 損傷調査、一部壁はがれる

土壁がはがれて竹小舞が見える

地震で倒れない伝統木造建物 〜実大伝統木造建物の振動台実験〜

実験は文部科学省「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター(Eディフェンス)で平成19年1月30日と2月2日に実施された。
目的は伝統構法木造建物を構造力学的に解明し、耐震性能を評価するため、床や屋根構面など水平構面の影響、礎石立ち・足固めの柱脚仕様の効果、直交する鉛直構面の効果、仕口など接合部の効果を検討することになった。
今回は、2月2日のJMA神戸波(一九九五年兵庫南部地震で神戸海洋気象台で記録された震度6強の地震波100%)による実験をとりあげる。
実験の目標とされた加速度はX軸620Gal(左右方向)とY軸820Gal(前後方向)とZ軸330Gal(上下方向)で行われた。振動体のモデル棟は短辺方向と長辺方向に架けた切妻屋根の2棟が設置された。
実験の結果、所見として言えることは礎石に直接柱を建て緊結していないため揺れに対し持ち上げられたり石の上を柱が滑ったりして地震エネルギーを逃していることがわかり、建物にかかる力は減少され、有効であることが判明した。
そして、大きく軋み上下左右に揺れ動いても元の形に戻り、決して倒れたりはしない。最大層間変位角は大きい屋根のモデル棟で1/15rad(ラジアン)、小さいモデル棟で1/20radであり、倒壊の危険性のある1/120radには至っていない。これは「足固め」や「差鴨居」、「貫」などの横架材が伝統の仕口でしっかり継がれており、引張りと圧縮の力に効いていて柱が大きくしなっても揺れを吸収しているからである。
壁、天井、床面などが柔構造であるため大きなダメージが起っていない。
部分的には足固めの損傷は微少であり、一部、屋根を支える貫を渡してある束に割れが生じていたがおおむね水平材は損傷がなかったように思われる。
今後の施工上参考として考えられるのは、今回の実験では柱や足固め、差鴨居はすべて杉材を使われていたが材質的には柔かいので檜にする方がベターである。また柱と礎石が接する柱角は丸面に削り割れを防ぐ。
そしてまた、おしなべて寸法がやや小さめであったため特に柱の断面欠損による損傷が若干みられているので柱は最低五寸(15cm)角以上、差鴨居は四寸(12cm)×一尺(30cm)、足固めは四寸(12cm)×八寸(24cm)とするのがよい。
実験を終えて感じたことは阪神大震災クラスの揺れに対して予想以上に粘り腰をみせ、丈夫であったと言うことである。
今後あと一、二度の実験を経て必ず伝統構法の強さがさらに実証され、国土交通省が建築基準法の仕様規定を新しく設け告知される日は近いと思われる。そうなれば、現在のように「限界耐力設計法」で算出された数値を「構造計算適合性判定機関」(ピアチェック)へ持って行き、時間をかけた確認申請の流れがもっとスムースになるのである。せっかく受け継がれてきた大工技能が思う存分発揮されるためにも一日も早い対策を願ってやまない。

平成19年1月30日と2月2日実施され、その内容を分析し、所見を述べたがその後、平成20年11月28日と12月4日の二度、再び実験が行われた。
今回は建物を「関東型」と「関西型」の2棟を用意し、別々の日に実験を行った。実施者は日本住宅・木材技術センターを事務局とする「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」で、前回と同じ兵庫県三木市にある耐震工学研究センター(Eディフェンス)の振動台を用いた。
2棟の仕様は土壁による建築基準法の求める耐力壁量と四分割法による壁の配置、間取りは同じであるが「関東型」は土台勝ちで長ホゾ加工した柱を土台に差し入れている。一方、「関西型」は柱勝ちの石場建て(石と柱の間にはダボあり)足固め、貫で緊結し、両棟とも接合補強金物などは使用していない。振動波は前回と同じくJMA神戸波で震度6強の地震波100%であった。
その結果、2棟とも大きくしなり、「関東型」は何本か柱の曲げ破壊がみられ、一部に壁土のはく落があった。「関西型」はそれよりは損傷が少なかった。しかし、双方は何本かの柱の損傷があったにもかかわらず、実験後に建物の変形がほとんど残らなかった。
土壁の告示仕様の妥当性も実証され、伝統構法で建てられた木造住宅は崩壊しなかったのである。このことは、屋内に人が居ても建物の倒壊がみられなかったので被害がなかったことを意味する。また一歩、伝統構法、特に石場建ての強さが実証され、将来に向け大きな希望の波紋を投げかけた。

平成23年1月21日に兵庫県の三木市のEディフェンスにて、「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」が主催で実験が行われた。前回に実施された加振と同一のJMA神戸波(震度6強)による実大実験である。補助金物を使わず伝統的な継手、仕口を用い、柱は杉四寸角、梁成八寸〜一尺を使用、土壁塗り、差し鴨居、貫などを主な耐力要素で「石場建て仕様」の二階建ての試験体を設置された。実験結果、加振で最大層間変位角は一階が1/21rad(ラジアン)、二階が1/24radで柱脚移動の最大値は長辺方向が120ミリ、短辺方向が189ミリとなった。建物の損傷は一部土壁の亀裂や剥離があったが、軸組そのものにはほとんど損傷がなく建物の倒壊は起らなかった。これらのことで「石場建て仕様」の家は構造的な安全性の基準はクリアーしたものと考えられる。
平成24年末までに壁量計算レベルの計算で、伝統的木造住宅の「簡易計算法」の確立が期待される。

〈平成24年 実験〉

土壁は亀裂があったが
剥離していない

「石場建て」として柱を基礎に固定していないので柱脚が浮き立ったり、滑ったりして地震エネルギーを逃がしている
左棟石場建て右棟は土台建て

平成24年9月19日、前回と同じく伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会が主催で兵庫県三木市のEディフェンスで伝統的な構法の石場建てと土台構法の二棟でいずれも金物なしで建築したものである。
実験では阪神大震災と同一の地震波(JMA神戸波震度6強)を用いて、縦揺れ、横揺れを再現実験。層間変形角30分の1radを「安全限界」としているが2つの試験体とも20分の1radで柱脚の滑り量はともに120mm程度であり、土壁にひび割れが入ったが倒壊はしなかった。この結果から委員会は今後、国土交通省に壁量計算並みの手数のかからない伝統木造の簡易設計法などを提案する考え方である。
実験は平成19年、20年、23年、24年と計4回続けられ今回は最後の実大振動実験になると言われている。